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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)162号 判決 1968年3月15日

上告人

斎藤健三

上告人

白川栄一こと

姜栄一

上告人

白川貞康こと

姜貞康

上告人

白川忠弘こと

姜忠弘

外二五名

右二九名訴訟代理人

金綱正己

根本孔衛

鶴見祐策

被上告人

東京都

右代表者

美濃部亮吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人金綱正己、同根本孔衛、同鶴見祐策の上告理由第一、二点について。

所論の準備書面には所論のような記載があるが、右準備書面が原審口頭弁論期日に陳述された形跡は認められない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第三点について。

所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するにすぎず、所論の引用の原判示に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第四点について。

所論違憲の主張は前提を欠くことが明らかであるから、採用できない。

同五点について。

被上告人の被告姜吉煥に対する本訴請求が本件土地の所有権に基づいてその地上にある建物の所有者である同被告に対し建物収去土地明渡を求めるものであることは記録上明らかであるから、同被告が死亡した場合には、かりに姜喜美子が同被告の相続人の一人であるとすれば、喜美子は当然に同被告の地位を承継し、右請求について当事者の地位を取得することは当然である。しかし、土地の所有者がその所有権に基づいて地上の建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではないと解すべきである。けだし、右の場合、共同相続人らの義務はいわゆる不可分債務であるから、その請求において理由があるときは、同人らは土地所有者に対する関係では、各自係争物件の全部についてその侵害行為の全部を除去すべき義務を負うのであつて、土地所有者は共同相続人ら各自に対し、順次その義務の履行を訴求することができ、必ずしも全員に対して同時に訴を提起し、同時に判決を得ることを要しないからである。もし論旨のいうごとくこれを固有必要的共同訴訟であると解するならば、共同相続人の全部を共同の被告としなければ被告たる当事者適格を有しないことになるのであるが、そうだとすると、原告は、建物収去土地明渡の義務あることについて争う意思を全く有しない共同相続人をも被告としなければならないわけであり、また被告たる共同相続人のうちで訴訟進行中に原告の主張を認めるにいたつた者がある場合でも、当該被告がこれを認諾し、または原告がこれに対する訴を取り下げる等の手段に出ることができず、いたずらに無用の手続を重ねなければならないことになるのである。のみならず、相続登記のない家屋を数人の共同相続人が所有してその敷地を不法に占拠しているような場合には、その所有者が果して何びとであるかを明らかにしえないことが稀ではない。そのような場合は、その一部の者を手続に加えなかつたために、既になされた訴訟手続ないし判決が無効に帰するおそれもあるのである。以上のように、これを必要的共同訴訟と解するならば、手続上の不経済と不安定を招来するおそれなしとしないのであつて、これらの障碍を避けるためにも、これを必要的共同訴訟と解しないのが相当である。また、他面、これを通常の共同訴訟であると解したとしても、一般に、土地所有者は、共同相続人各自に対して債務名義を取得するか、あるいはその同意をえたうえでなければ、その強制執行をすることが許されないのであるから、かく解することが、直ちに、被告の権利保護に欠けるものとはいえないのである。そうであれば、本件において、所論の如く、他に同被告の承継人が存在する場合であつても、受継手続を了した者のみについて手続を進行し、その者との関係においてのみ審理判決することを妨げる理由はないから、原審の手続には、ひつきよう、所論の違法はないことに帰する。したがつて、論旨は採用できない。

上告人斎藤健三、同笠原隆吉、同高倉丑三、同高倉昭一、同永岡清、同金寅述、同川野啓太郎、同楠家常太郎、同藤井寿夫、同有限会社舘野箔押所、同舘野勇、同岩間生昌、同姜栄一の各上告理由について。

所論は、いずれも、原判決に憲法の解釈の誤り、その他憲法の違背あること、または判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背のあることを主張するものではないから、論旨はすべて採用に値しない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人金綱正己、同根本孔衛、同鶴見祐策の上告理由

第五点 必要的共同訴訟手続の看過の違法

第一審の被告姜吉煥が昭和三五年一一月二一日に死亡し、同人の長男控訴人姜栄一、同二男控訴人姜貞康同じく四男控訴人姜忠弘が、訴の対象になつている物件を共同相続したのであるが、その後、姜吉煥の二女姜喜美子がこの訴訟の存在を知り自分も右物件の共同相続者である旨を原裁判所に昭和四〇年一一月一〇日に届出た。本件は必要的共同訴訟にあたるものと思われるので原裁判所はたゞちに弁論を再開し、調査の上、同人を訴訟に関与せしめる措置をとるべきであり、そうでなければ訴訟要件の欠缺として少くともこの部分について訴の却下をすべきであつたにもかかわらず、この挙に出なかつたのであるから、原審の訴訟手続違背は重大であり、破棄をまぬがれない。

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